ここ数年、新しい施設が次々と誕生し、注目度が急上昇中の淡路島。世界最長の吊り橋・明石海峡大橋を渡れば、そこは「神戸がこぼした涙」の形をした、関西随一のリゾートアイランド。自転車で島の美しい海岸線を周回する、約150㎞のサイクリングコース「アワイチ」も人気を呼びつつある淡路島を、ホンダの最新EV「N−VAN e:」でひと巡り。
(文/倉田克之・神内治)
「N−VAN e:」は、「2030年に新車販売を電動車のみにする」と宣言したホンダが、本格的にEV展開をスタートする第1弾。軽商用モデル「N−VAN」の長所である優れた積載性や、センターピラーのない大開口などの特長はそのままに、給電機能や静粛性、加速の力強さといったEVならではの価値を加えた。
試乗車は全4タイプある中で、商用だけでなくレジャーユースも対象にした「FUN」。最高出力47kW、最大トルク162N・mのモーターを積み、駆動用リチウムイオンバッテリーの総電力量は29・6kWh。既存の軽EVのおよそ1・5倍の容量は、一充電走行距離245km(WLTCモード)を実現した。
神戸淡路鳴門自動車道をEVらしい加速力で爽快に駆けて、まず訪れたのは、広大な国営明石海峡公園の海沿いにある、“癒やし”と“食”をテーマにした複合天然温泉リゾート「アクアイグニス淡路島」。目的は、ベーカリー「マリアージュ ドゥ ファリーヌ」での朝食だ。淡路島の塩や牛乳、玉ねぎなど、厳選した新鮮食材を使ったこだわりのパンを、カフェでいただく。せっかくのインフィニティ温泉だが、またこの次、島を巡った帰りにゆっくり楽しむことにしよう。
島の東海岸を南下、島内最大の町、洲本市に向かって走る。市街地の南には、標高133mの三熊山があり、その山上に残るのが洲本城跡だ。戦国時代から江戸時代にかけて、淡路国統治の拠点となった洲本城。戦国時代の様式を表した城郭は、保存状態が良く、国の指定史跡、兵庫県の指定文化財となっている。天守閣は1928年に建てられたもので、模擬天守閣(展望台)としては日本最古。ただ残念ながら、現在は天守閣への入場はできないそうだ。
淡路島は北の明石海峡、南の鳴門海峡と合わせ、3つの海峡に面しており、もうひとつの紀淡海峡を一望できるのが、瀬戸内海国立公園に属するこの三熊山。晴れた日には、はるか彼方に大阪・堺の市街地を望むこともできるという。
沖合に和歌山・友ケ島を遠望しながら、島の東端をぐるりと回り、12〜2月には水仙の白い花が咲き誇ることからその名がついた、南淡路水仙ラインを西へ。やがて、雄大な渦潮の絶景で知られる鳴門海峡に行き着く。
幅約1・3㎞、瀬戸内海と太平洋を結ぶ鳴門海峡のすさまじい速さの潮流と、海峡両岸に近い穏やかな流れの境目で発生するのが、大きいものだと直径およそ20mにも達する「鳴門の渦潮」だ。
その渦潮が眼下に広がる大鳴門橋と海峡を一望できる丘の上に1985年、橋の開通とともにオープンしたのが、体験型の学びとグルメが満載の施設「うずの丘 大鳴門橋記念館」。「高さ2・5m、直径2・8m、重さ200㎏の巨大玉ねぎアート「おっ玉葱」など、玉ねぎをテーマに淡路島をアピールする多彩な企画を発信している。
「うずの丘 大鳴門橋記念館」内にある「絶景レストラン うずの丘」は、その名の通り、食事をしながらガラス越しに鳴門海峡と大鳴門橋の絶景が見渡せる。ここで味わえるのは、ウニや淡路牛、旬の魚にスイーツなど、淡路島の新鮮食材を活かしたユニークな絶品料理の数々。
おすすめのひとつが「でっかい!島のたこのタタキ茶飯」(3520円)。SNSで総再生回数1500万回以上を誇る、新名物メニューだ。淡路島の漁港で揚がった旨味の濃いタコの足を、丸々1本炙ったタタキは、蛇腹状の切込みを施すことで、やわらかな食感に。土佐醤油やポン酢など、好みのタレで味変しながら食べるのがスタンダード。
もうひとつは「うずの丘 海鮮うにしゃぶ」(5280円)。淡路島の絶品生うにをベースに仕上げたこくのあるスープに、新鮮な魚介をしゃぶしゃぶ。淡路島の旬を贅沢に楽しめる高級鍋だ。シメの雑炊まで、まさに至福のうに三昧!
渦潮の絶景を後に、「N−VAN e:」は一転、西海岸を北上する。乗員は大人2人、荷物も撮影用のカメラバッグ程度しか積んでいないせいもあるかもしれないが、ハンドリングや乗り心地はすこぶる快適。アクセルはリニアに反応し、身のこなしは乗用モデルかと思うほどゆったりとマイルドで、実に扱いやすい。
その名も「淡路サンセットライン」とネーミングされたルートには、瀬戸内海に沈む夕日を眺めながら、カフェやディナーを楽しめるスポットが目白押し。ちょうど夕日の落ちる頃合い、立ち寄ったのは、シーサイドレストラン&マーケット「淡路島クラフトサーカス」。ここでは、海鮮料理やシーフードBBQ、淡路牛のハンバーガー、ピザなどの食事と、地元農家の産直野菜、世界各国の雑貨などのショッピングが楽しめる。
夕日を眺めるなら、海に面したテラス席で。犬と一緒に食事ができるドッグテラスもあるから、愛犬家にはこたえられない。
神戸淡路鳴門自動車道を淡路ICで降りて、県道を5分ほど走ると、2022年4月に誕生した禅リトリート施設「禅坊 靖寧」。ここでは、360度に広がる淡路島の四季折々の景色、さんさんと降り注ぐ陽の光、澄み切った空気、雄大な緑を体全体で感じながら、マインドフルネス(瞑想による脳と心の休息)を味わうことができる。
圧巻なのは、淡路島の絶景に溶け込んだダイナミックな設計の建物の2階部分、日本杉を組み合わせてつくられた全長100mのウッドデッキだ。前後左右を開放した空間で、誰でもゆったりと禅が組めるように設計された、特製のリトリートチェアに座って、目を閉じ、しばしの瞑想タイム。自然と一体になって、心が落ち着いてくるような気がするから不思議だ。
気軽に禅体験ができるのは、約3時間の日帰りプラン。ZEN Welness(瞑想とヨガ)、淡路島産の旬の食材と発酵を取り入れた体にやさしい“禅坊料理”、自分で自分にお茶を点てるZEN茶が楽しめる。忙しい日常に追われ、ゆったりとした時間が持てない方、自分自身と向き合う時間がほしいと思っている方などは、ぜひ一度体験してみられるといい。
ランチが付いた日帰りプランは18000円〜。1泊2食付き48000円の宿泊プランもある。
▶軽商用モデル「N−VAN」とプラットフォームを共有するが、大径化されたタイヤに加え、充電リッドを備えたフロントセンターグリルとテールランプは専用デザイン。センターグリルは廃棄バンパーのリサイクル樹脂製で、通常は異物とされた塗膜のカケラを、あえて増やして混ぜ合わせ、世界で1台だけのデザインへと価値を転換。環境へのやさしさに応える、EVらしいこだわりのアクセントだ。
▶大容量バッテリーの採用、電動アクスルの小型化、高電圧部品の集中配置による部品占有スペースの最小化などにより、商用ユースに求められる実用航続距離と大容量の荷室空間の両立を目指した。一充電走行距離245km(WLTCモード)を実現し、充電時間は普通充電(6・0kW出力)で約4・5時間、急速充電(50kW)で約30分と、利便性も追求した。さらに、バッテリー冷却・加温システムにより、高温や低温によるバッテリーの性能低下を抑制、とくに冬季の充電時間の短縮と航続距離の向上を図った。
▶先進の安全運転支援システムを全タイプに標準装備。また、ホンダの軽商用バンとして初めて、衝突事故での2次被害を軽減する技術である衝突後ブレーキシステムを採用した。